米大統領選挙における世論調査と勝者予想COLUMN

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2016.12.15
マクロミル総合研究所
所長 萩原雅之

今回の米大統領選挙では多くのメディアやアナリストが予想を外したと批判されたが、そもそも世論調査と勝者予想は手法も読み方も異なるものである。

日本でも「クリントン氏がトランプ氏を2ポイントリード」といった海外メディアを引用した報道を多く見かけた。その多くは電話やネットによる全米を対象にした世論調査の支持率データだ。選挙調査は全国民ではなく選挙に行く可能性の高い人(Likely Voters)を対象にすることが多く、属性や地域で補正をかけるのが一般的であるが、いずれにしても実際の得票数や得票率に相当するものだといえる。

一方、勝者予想は、州ごとに得票の多かった候補者がその州の「選挙人」を総取りするという米大統領選挙制度を反映させたものだ。州別の世論調査データを使い、どの州でどちらの候補が勝つかを数学的モデルで判定し、過半数の選挙人を獲得する確率を算出する。例えばニューヨーク・タイムズは投票前日、当選確率をクリントン氏85%、トランプ氏15%とはじいた。いかにも大手メディアの予測が外れたような印象を与えるが100%とは言っていない。降水確率80%を5日間だして1日だけ雨が降らなければ、予測は「正確」ということになる。現に残りの20%が起こりえることは異常なことではない。

世論調査は必ずしも的外れではなかった

意外なことに、執筆時点のクリントン氏の得票は6,546万票で、トランプ氏の6,280万票より266万票(2.0ポイント)も多い。クリントン優勢を伝えた世論調査は外れたわけではなかったともいえる。だが獲得選挙人は、クリントン氏232人に対してトランプ氏は306人で圧勝とも言える大きな差がついた。今回のように支持率が僅差の場合、獲得票と勝敗が逆転する状況はいわばコイントスのようなもので、本来はどちらに転んでもおかしくない。クリントン氏が選挙人も過半数を獲得し勝利していたら、世論調査や数学モデルはこれほど批判を浴びることはなかっただろう。

得票数 得票率 勝利州 獲得選挙人
トランプ氏 6,280万票 46.2% 29 306
クリントン氏 6,546万票 48.2% 21 232

出所: 2016 National Popular Vote Tracker(2016年12月7日時点)による

勝者予想のモデル作成には2つのポイントがある。ひとつは接戦州における世論調査をクロス集計で細かくみていき、性・年齢・学歴・人種などクラスターごとの支持傾向を読み取っておくこと。もうひとつは実際の投票行動にともなう「不確定要素」にどのような仮定を置くかということだ。

今回の世論調査では、過去の選挙に比べて「態度未定」との回答が著しく高かった。各種世論調査平均で従来は3%程度だが、今回は12%もあったという。嫌われ者同士の選挙といわれ、共和党支持だがトランプ氏が嫌い、民主党支持だがクリントン氏が嫌いというねじれも生まれた。モデル作成に不可欠の「過去の調査と結果との相関」が単純には適用しにくいため、態度未定者のどのくらいが棄権するのか、投票するならどちらなのかは分析者が設定する必要があった。

トランプ氏の勝利を予測したアナリストもいる

こうした状況で陥りがちなのが、結論に対する「予断」である。分析者自身がトランプ氏の勝利を想定していなければ、都合のいい情報やデータを無意識に重視する確証バイアス(confirmation bias)が働き、ほかに起こりうる可能性についての検討が不十分になってしまう。世論調査ではクリントン氏の支持率が高かったのだからなおさらだ。

一方でクリントン氏優位という世論調査データを使いながらトランプ氏の勝利に言及したアナリストもいた。選挙分析の専門家 David Wasserman氏だ。彼は「トランプ氏は得票数では負けるが、大統領になる可能性は高い」と9月に発表していた(注)。2012年の大統領選での政党投票データを基本に、州や属性セグメントごとの投票行動心理に基づいて仮説を立て、前回との投票率の変化を大胆に予測モデルに組み込んだのが特徴だ。データサイエンティストでありながら定性的なインサイトを駆使したのである。

選挙予測に限らず、同じデータを複数のアナリストが分析して結論が正反対となるのは珍しいことではないし、それこそが専門家の存在価値だろう。データが示していることと逆の結論を導くアナリストがいたことはむしろ希望でもある。予想通りの結果になったときよりも失敗から学ぶほうが多いのは選挙予測に限った話ではない。

(注)David Wasserman, “How Trump Could Win The White House While Losing The Popular Vote”, FiveThirtyEight, September 15, 2016
http://fivethirtyeight.com/features/how-trump-could-win-the-white-house-while-losing-the-popular-vote/

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執筆者プロフィール

マクロミル総合研究所 所長
萩原 雅之(はぎはら・まさし)
トランスコスモス・アナリティクス株式会社 取締役副社長
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