世論を測ることの難しさと面白さCOLUMN

2015.12.16
マクロミル総合研究所
所長 萩原雅之

調査に答えているのは誰か

夫婦別姓に対する国民の関心は高い。今月発表されたNHK世論調査では「夫婦は同じ名字を名乗るべきだ」との回答が50%、「同じ名字か別の名字か選べるようにするべきだ」との回答が46%であったが、年齢層で考え方が大きく異なるのが実情だ。調査結果を報道するニュースでは、年齢別の結果を出したうえで「調査回答者の55%を60歳以上が占めており、賛否拮抗という見方は誤り」という専門家のコメントも加わっていた。

”夫婦は同じ名字”どう考える?

出所:2015年12月7日 NHKニュース

20歳以上の人口に占める60歳以上の比率は40%(2014年推計値)なので、確かに高齢者の比率が高い。だがこれは視聴者には見えない調査手法上の問題だ。ヘッドラインの見出しは「世論を二分」であり、夫婦別姓選択に反対50%、賛成46%という結果は「拮抗」としかいいようがない。「調査結果の見方が誤り」とまで言ってしまうのは世論調査の自己否定といってもよいだろう。

実際の年齢分布にあわせてウエイト付け集計を行なえば日本国民全体の賛否についての推計はできる。若い世代のウエイトは高くなるので賛成派が上回る可能性は高い。ただ世論調査の報道ではこのような補正はおこなわれず、そのままの数字を全体値とするケースがほとんどだ。これに文句をつけても仕方がない。若い世代の調査協力率が低いのは事実であり、世論調査に答えないのは世論として存在しないのと同じだ。

もしスマホで調査していたら

電話世論調査で高齢者層に回答者が偏るのは以前から指摘されている。固定電話を対象としているので在宅率の高い世帯が答えやすくなるし、若い世代では固定電話を捨てて携帯電話だけという世帯も増えてきた。夫婦別姓の問題は女性就労(在宅率)との関係が深く、世帯にひとつという固定電話のしくみそのものが夫婦別姓への態度と関係するという仮説も可能だろう。ここにもバイアスの要因がある。

報道機関も手をこまねいているわけではなく、新しい調査手法の研究開発を進めている。今年は携帯電話にかける実験調査が行なわれ注目を集めた。ひとつはNHKが行なったもの、もうひとつは日本世論調査協会に加盟する新聞社など6社によるプロジェクトである。結果で注目されたのは若い年齢層にリーチできることだ。60歳以上の比率はNHKが31%、世論調査協会の2回の調査は24%と27%で、年齢分布は固定電話とは逆の傾向を示す。

だから今の世論調査は過去の延長で固定電話というチャネルを使っているにすぎない。もし携帯電話も併用されていたら、より国民全体の意見に近づけることは可能だろうし、夫婦別姓選択の設問に関してはずいぶん異なる結果となるだろう。携帯電話への調査は回収率や移動中対応など課題は多いが、ショートメッセージを併用するなどの工夫で、将来的にはメインで使われるようになるのは確実だ。海外ではすでに実用化している国も少なくない。

自分の意見の立ち位置を確認する

ソーシャルメディアが普及して、わたしたちは他のひとがどんな意見を持つかをリアルに知る機会は増えた。だが、安保法案にせよ、夫婦別姓にせよ、賛成意見には賛成意見しかつかないし逆もまたそうだろう。ソーシャルメディアでは、マジョリティもマイノリティも同じ考え方を持つ人たちが集まり、可視化される仕組みになっているため、自分の意見に近い人ばかりだと錯覚しても不思議ではない。意見は強固となり食い違いがより際立つことで、結果的に他人の意見への寛容度も低下していく。

だからこそ、自分の意見や立ち位置が全体の中でどこなのかがわかる世論調査の価値がある。世論調査は政治家も政策の参考にするので、夫婦別姓のような意見の分かれるイシューは現状を知ることがとても大切だ。年齢による差が明らかなのであれば、NHKニュースがそうであったように、その差に注目して報道すればよい。またマクロミルのウィークリーインデクスのように、定点観測的に変化の方向性を知ることを目的にした設計であればネットリサーチからもリアルな知見が得られることがわかっている。

本日、夫婦別姓のあり方を決める最高裁判決が出ることになっている。夫婦別姓を認めない民法が憲法違反という判決であれば別姓選択支持も劇的にふえるはずだが、それはやはり調査しなければわからない。世論は常に変化していくものである。ひとつの調査はひとつの瞬間を切り取ったものにすぎない。最高裁判決によってどのように世論が動くのかというダイナミクスの構造を知り、自分の意見を比べることも世論調査を読む醍醐味である。

執筆者プロフィール

マクロミル総合研究所 所長
萩原 雅之(はぎはら・まさし)
トランスコスモス・アナリティクス株式会社 取締役副社長
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