理解していなくても評価できるかCOLUMN

2015.08.28
マクロミル総合研究所
所長 萩原雅之

世論調査における「評価」と「理解」の扱い

5月11日に発表されたNHK世論調査結果を伝えるニュースを見て驚いた。安倍首相のアメリカ議会での演説を受け、「安保法制の関連法案を夏までに成立させる」という方針について「評価する」と「評価しない」がほぼ二分という結果だったが、法案の内容については半数が「理解していない」というのだ。

安倍総理大臣がアメリカ議会で演説し、集団的自衛権の行使を含む安全保障法制の関連法案を、ことし夏までに成立させる考えを明言したことについては、「大いに評価する」が7%、「ある程度評価する」が33%、「あまり評価しない」が34%、「まったく評価しない」が17%でした。安倍内閣が進めている安全保障法制の整備の内容を、どの程度理解しているか尋ねたところ、「よく理解している」が6%、「ある程度理解している」が39%、「あまり理解していない」が40%、「まったく理解していない」が9%でした。(2015年5月11日 NHKニュース)

このニュースを聞いた人の多くは「理解していないのに評価できるのか」と思うに違いない。また前日の読売新聞にはこのような世論調査記事が掲載されていた。

読売新聞社の全国世論調査で、中国が主導して設立されるアジアインフラ投資銀行(AIIB)に、日本政府が米国と共に参加を見送っていることを「適切だ」と思う人が73%に達し、「そうは思わない」の12%を大きく上回った。安倍内閣を支持する人の中では、参加見送りを「適切だ」とする人が80%を占めており、内閣を「支持しない」と答えた人でも、「適切だ」は63%に上った。AIIBには運営の公平性などで懸念が示されており、政府の判断は幅広く受け入れられている。(2015年5月10日 読売新聞)

理解度については聞いていないが、もしアジアインフラ投資銀行(AIIB)についてどの程度理解しているかと尋ねたら、どのくらいの人が「理解している」と答えるだろう。読売新聞は72%という数字を元に「政府の判断は幅広く受け入れられている」と報道しているが、そこまで言い切っていいものだろうか。

世論調査の設問は難しいものが多い。新聞記者は日本国民の多くが政治面や経済面にある記事をきちんと読んで、そこに出てくる言葉や政策を理解していると思っている。私が新聞社系のリサーチ会社で世論調査を担当していた時も、記者から上がってきた質問案をみて「これは難しすぎる」「ふつうの有権者は答えられない」と感じることは多く、修正の調整にはずいぶん時間をかけていた。

アンケートでは回答の「深さ」の違いが反映されない

これは調査を実施する側だけの問題ではない。回答する側の問題でもある。実はよく理解していないことに対しても、電話口でどう思うか、と聞かれれば「そう思う」「思わない」くらいはとっさに口にでる。分かりませんとはなかなか答えにくいものだ。そういう直観的な感覚的な回答が世論調査の結果として報道され、政治や政策に間接的に影響を与えるのは決して望ましいことではない。

知らなくても何らかの回答を求めるというアンケートの特性は、世論調査でなくても常に考えておかなくてはならない大切な視点だ。

同じ回答でも、確信を持って出す評価、悩んで出した評価、気分で出した評価、知らないので適当な評価など「深さ」の違いがあるはずだが、選択肢にチェックされればすべて等価として扱われる。印象で答えられたものでも、報告書になると数字が事実として扱われるようになる。

ふだんそれほど意識していないことを想起させることから得られた数字の扱いは、慎重にあるべきだろう。アナログな意識がデジタルなデータに変換される瞬間の個人差異をどう捉えるか、難しい問題ではあるが、挑戦する価値のあるテーマだ。

執筆者プロフィール

マクロミル総合研究所 所長
萩原 雅之(はぎはら・まさし)
トランスコスモス・アナリティクス株式会社 取締役副社長
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