消費者理解にバイアスを活用するCOLUMN

2015.07.10
マクロミル総合研究所
所長 萩原雅之

マーケティングの先生方が参加するワークショップに参加

カリフォルニア工科大学の下條信輔(しもじょう・しんすけ)教授を囲むワークショップに参加した。下條教授は『サブリミナル・インパクト』などの著作で有名な認知科学者である。消費行動についての論考も多く、マーケターやリサーチャーの間でもファンが多い。30分の持ち時間のなかでふだんの問題意識や研究アイディアをプレゼンし、下條教授やマーケティングの先生方と意見を交わすという貴重な機会だ。

私からは「質問票における無意識バイアスについて」というテーマで報告を行なった。リサーチャーは質問票を作るときに意図的な誘導をしないようにと学ぶ。質問に答えるときの認知バイアスはなぜ起こり、どうすればなくせるのかという問題提起だが、下條教授から指摘されたのはむしろバイアスの持つ価値であった。

脳は表現によって異なる判断をする

アンケートやインタビューでは、問いの視点や言い回しが変われば反応は異なる。表現ひとつで反応が変わる「フレーミング効果」という言葉は聞いたことがある人も多いだろう。たとえば「90%の生存率」と「10%の死亡率」はまったく同じことを意味するが、伝えられた時に手術を希望する患者の比率は大きく異なる。左図の真ん中の文字を Bと読むか 13と読むかはコンテキスト次第だ。

この現象についてどちらが真実かを問うのはあまり意味がない。問いと答えのセットは観察された事象としては「正しい」反応なのだ。その違いを考察することに人間理解への手がかりがある。下條教授が取り組んでいるニューロエコノミクス(神経経済学)は、まさにこのような反応の不思議さ、言い換えると認知バイアスの影響を脳神経の信号レベルで解明しようとするものだ。

バイアスを、逆に活用する

新商品のコンセプトや試作品をみせれば購入意向者の比率はわかるが、実際に市場に出れば、売られ方や生活(コンテクスト)に左右される。客観にこだわりすぎたバイアスの排除はコンテクストの排除にもつながる。バイアスをかけた質問に対する反応の違いを解釈することでリアルな消費者の心も立体的に理解できるのではないか。

下條教授とのワークショップを通してそんなヒントをいただいたように思う。

執筆者プロフィール

マクロミル総合研究所 所長
萩原 雅之(はぎはら・まさし)
トランスコスモス・アナリティクス株式会社 取締役副社長
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